【時計の心臓部】ヒゲゼンマイを作れるメーカーはなぜ少ない?ノモスが成し遂げた「スイングシステム」の偉業

【時計の心臓部】ヒゲゼンマイを作れるメーカーはなぜ少ない?ノモスが成し遂げた「スイングシステム」の偉業

機械式時計のなかでも、直径わずか1センチメートルほどの「ヒゲゼンマイ」は、時計の精度を左右する最も重要な心臓部です。

髪の毛よりも細い金属の巻きバネであり、1ミクロン単位の厚みの違いで日差が大きく狂ってしまうため、その製造には途方もない技術と設備が必要とされます。かつてのクォーツショックを経て、スイス時計産業の大部分はスウォッチグループ傘下の「ニバロックス社」が製造するヒゲゼンマイに依存してきました。世界で見ても、この極小パーツを自社で作り上げられるメーカーはごく一握りに限られています。

そんな時計業界の常識を覆し、独立系マニュファクチュールとしての地位を決定づけたのが、ドイツ・グラスヒュッテの「ノモス グラスヒュッテ(NOMOS Glashütte)」です。

ヒゲゼンマイの自社製造・供給が可能な主なメーカー

  • スウォッチ グループ(Nivarox-FAR社): 業界最大の供給元。多くのスイス製ブランドにヒゲゼンマイを供給。

  • ロレックス: 独自合金「パラクロム」やシリコーン製「シロキシ・ヒゲゼンマイ」を完全内製。

  • リシュモン グループ(A.ランゲ&ゾーネ、ジャガー・ルクルトなど): グループ内で伝統的な金属ヒゲゼンマイの内製化を実現。

  • パテック フィリップ: 独自のシリコン製ヒゲゼンマイ「スパイロマックス」などを開発・製造。

  • H.モーザー(Precision Engineering AG): 自社グループでヒゲゼンマイを製造し、他社への供給も行う稀有な存在。

  • シチズン(MIYOTA): 自社一貫体制を敷き、国内でヒゲゼンマイの量産・製造技術を持つ。

  • ノモス グラスヒュッテ(NOMOS Glashütte): 後述の「ノモス スイングシステム」により自社製造を実現。

外部依存からの脱却:ノモスが挑んだ7年の開発

長年、ノモスも多くの時計ブランドと同様に、ムーブメントの心臓部(脱進機やヒゲゼンマイ)を外部サプライヤーから調達していました。しかし、「真のマニュファクチュールへの脱皮」を目指した彼らは、2007年からおよそ7年の歳月と巨額の投資を投じ、脱進機の完全内製化プロジェクトをスタートさせます。

そして2014年、ついに完成させたのが独自の調速機「ノモス スイングシステム」です。

このスイングシステムには、極めて高い製造難易度を誇る自社製ヒゲゼンマイが含まれており、ノモスは外部の巨大資本やサプライヤーに頼ることなく、自社のアトリエで心臓部までを完結させることができるブランドへと進化を遂げました。

自社製ヒゲゼンマイを持つということ

スイスの超高級メゾンや一部の巨大グループ(ロレックスやパテック フィリップ、リシュモンなど)を除き、中堅の独立系ブランドが自社製ヒゲゼンマイを実現している例は極めて異例です。

ノモスがスイングシステムを搭載したムーブメント(DUWシリーズ)を次々と市場に投入できたことは、単なる「コスト削減」にとどまりません。時計の設計思想を根本からコントロールし、ドイツ・グラスヒュッテの伝統と高い技術力を次世代に残すための、強烈な意思表示でもありました。

私たちが腕に巻くノモスのシンプルなバウハウス・デザインの裏側には、こうした「ヒゲゼンマイの自社製造」という、時計史に残るマニュファクチュールの壮大な挑戦が隠されています。次にノモスの時計を手にする際は、ぜひその美しいテンプの動きと、心臓部に込められたドイツ時計の誇りに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

 

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