世界最大のムーブメントメーカー“ETA/エタ”を紐解く【前編】

世界最大のムーブメントメーカー“ETA/エタ”を紐解く【前編】

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今回はスイス最大のエボーシュ“ETA”の歴史についてご紹介しましょう。

皆様が抱く“ETA/エタ”に対するイメージがいい意味でひっくり返るかと思います。

多少長編になりますので【前編】【後編】に分けてご紹介していきます。

■初めに

ご存じの方も多いかもしれませんが、殆どのブランドでは、時計の中身「ムーブメント」までは製造しておらず、
ムーブメント製造メーカーから供給される「エボーシュ」を搭載して成り立っている、という事実があります。
最近では、そのすべてを一社で行う「マニュファクチュール」という言葉も注目されています。

さて、ETA/エタというワード自体は時計が好きな方であれば必ず聞いたことがあるでしょう。
いわゆる時計のムーブメントを専門に製造するメーカーで、現在ではオメガやブレゲ、ハミルトン、ティソ等と同じグループに所属しています。

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(↑ETA社製 Cal.2624-2をベースにハミルトンが開発したCal.H-10)

1990年代にはスイスの時計ブランドの8割が搭載していたETA社製のムーブメントは、信頼度の高さから搭載するブランドも多く、その地位が揺らぐことがありません。

というわけでETA/エタの歴史について少しでも知って頂ければと思い、細かくまとめることにしました。
時計好きであれば知っておいて損はない歴史の一つです。
ぜひ最後までご覧ください。

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■ムーブメント製造カルテル

さて、まず知っておいていただきたいのは、「ETA/エタ」というのは元をたどると、「エタ」「フォンテンメロン」「ランデロン」「ヴィーナス」「バルジュー」「ユニタス」「プゾー」「フルリエ」「フェルサ」「シルト」「A.ミッシェル」等の企業が結成したカルテル(連合)だったということです。

それぞれのメーカーが様々な名機を世に送り出しています。

例えばバルジューは、ROLEXのデイトナにも搭載されていたCal.72を製造。他にもクロノグラフムーブメントで最も搭載されているというCal.7750もバルジュー製ですね。

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(↑Cal.7750は現在でも名機として知られ、ETA社によって製造され続けています。)

他にも、ヴィーナスのCal.178はブライトリングのナビタイマー等に搭載され、プゾーのCal.7001はノモスやオメガも採用、ユニタスはパネライやティソ、エポスなどが搭載しています。

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(↑Cal.7001。現在も薄型手巻きムーブメントの代表格としてETAが製造。)

これだけでもETAが只者ではないというのはお判りいただけたかと思います。

■スイス時計産業黄金期

では時系列に沿ってこの「ETA/エタ」の歴史を紐解いていきましょう。

1924年、勢力を強める他国企業への対抗策として、スイス時計業界の3/4が参加する「Swiss Watch Federation」が設立されました。
その2年後、経営状況の改善を目的にスイスの銀行から強力な資金援助を受け、「シルト」「フォンテンメロン」「A.ミッシェル」の3社が“エボーシュSA”を結成します。

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(↑左からフォンテンメロン、シルト、A.ミッシェルの社屋。)

このエボーシュSAは、価格設定を同価格に設定することで過度な価格競争を避けることや、ムーブメント部品の一部の仕様を標準化して製造を最適化し、関連するコストを削減。
他にも、海外企業へ組立前部品の販売を強く規制しました。

これによりスイス市場の8割を占める勢力を持つことに成功したエボーシュSAは、結成3社以外のムーブメントメーカーを徐々に同組合へ加えていきます。
1927年には「ランデロン」、「フェルサ」が参加。
翌年には「ヴィーナス」といった有名企業が続々と参加することとなりました。

さてこの頃、完成品を販売する時計メーカーが、エボーシュSAの動きやその効果を確信し、同じような行動を起こします。

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それが、1930年にOMEGA/オメガとTISSOT/ティソの合併により誕生した”SSIH”です。

この2年後にはレマニアもSSIHへ参加し、同グループはクロノグラフの開発、製造を可能としました。
また別に、1931年にはエボーシュSAも参加する“ASUAG”が発足します。

そんな中、1932年にエテルナ社のムーブメント製造部門であった「ETA」が、エボーシュSAに参加します。また、同年に「ユニタス」、「フルーリエ」、「ベトラッハ」、「アローニョ」等も参加。
翌年には「プゾー」も合流しました。

このような一企業を超えた国全体の努力により、その後の1940年代から1970年代には機械式の黄金期と呼ばれる素晴らしい時代を迎えることとなりました。(今ではアンティークウォッチと呼ばれ、現存するハイクオリティな機械式時計はこの年代の物がほとんどです。)

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そしてこの黄金期である1944年、エボーシュSAにはスイスを代表する「バルジュー」が参加。
エボーシュSAはその地位を確立することとなります。

さて、その後スイス時計業界に恐ろしい時代が訪れます。それがかの有名な「クオーツショック(クオーツクライシス)」です。

 

世界最大のムーブメントメーカー"ETA,エタ"を紐解く【後編】に続く

 

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