機械式時計界を救った独立系時計メーカー『ORIS/オリス』

機械式時計界を救った独立系時計メーカー『ORIS/オリス』

  【オリスの創業と運命】

1904年、ポール・カッティンとジョージ・クリスチャンによってスイスのヘルシュタインで創設されたオリス。自然豊かな町に流れる、澄んだ小川の名から取った同社の社名。そこには、100年以上経った現在の、オリスの積極的な環境保全運動を予知していたかの様な、そんな不思議な運命を感じる事が出来ます。

ヘルシュタインにある4階建てのオリス社屋(写真中央)

 

【世界10大メーカーと言われたオリス】

オリスは1920年代半ばには、高品質な製品を世界に輸出するメーカーに成長。1938年にグローブを着けたままリューズを操作できる『ビッグクラウン』をヒットさせます。大きなリューズと、針で日付を指す視認性の高いビッグクラウンは、オリスの時計メーカーとしての技術と想像力を世に知らしめました。この出来事はオリスを躍進させ、1960年代には『世界10大時計メーカー』に数えられるまでに成長します。

初代ビッグクラウン

1929年頃のオリスの発展が分かるイラスト

 

【スイス時計産業を襲った危機①~スイス時計法~】

スイスの分業制の時計産業の発展と共に、スイス国内には大小幾つもの工房がひしめき合う様になりました。そして第1次世界大戦後、膨れ上がった時計産業の需要と供給のバランスが崩れます。1934年、スイス政府によりスイス時計法が制定。この法律は、戦後のスイス時計界の衰退を止めるべく活躍します。

ところがこのスイス時計法は「政府の許可なく新技術を導入できない」などの時計産業の発展の妨げになるものも多く、スイス時計業界復活後には、一部の利権者達が利益を得る為に利用する、悪しき法律となってしまうのです。

オリスは若手弁護士のロルフ・ポルトマンを起用し、時計界の進化を妨げる時計法の撤廃を画策。長き戦いを経て1966年、法律撤廃に成功するのです。このことはオリスのみならず、スイスの時計メーカー達の未来を救う結果となりました。

 

【スイス時計産業を襲った危機②~クォーツショック~】

スイス時計法が撤廃され順調かと思われたスイス時計産業でしたが、次は時代の波、テクノロジーによってその危機が訪れる事となります。1970年代、水晶で時間を制御するクォーツ式時計が登場しました。

一般的に時計の精度は振動数によって決まります。振動数とは、主に1秒間に得られる振動を数えたモノですが、従来の、振り子の法則を用いた機械式時計の振動数が「5~10回」に対し、水晶を振動させるクォーツ式時計の振動数は「32,768回」。この数字がそのまま精度に影響する事になるので、二つ時計の精度の差は火を見るよりも明らかです。そして、このクォーツ式時計の量産に成功したのが日本の時計メーカー『SEIKO』であったのです。

『クォーツショック』と呼ばれる、1970年代に起こったあまりにも急激すぎる変化は、世界中の時計産業に甚大なダメージを与えてしまいます。これによりオリスの経営も成り行かず、ASUAG(現在のスウォッチグループ)の傘下に吸収され、一時、クォーツ式時計の製造を課せられる事となりました。

しかし、1982年にロルフ・ポートマンとウルリッヒ・W・ヘルツォークが経営陣買収を実現し、クオーツ台頭の時代にあえて機械式中心の経営方針を打ち出して成功を掴んだのです。

オリスの機械式時計における成功は、クォーツショックによって疲弊していた多くのスイス時計メーカー達を鼓舞し、やがて伝統的な機械式時計の時代の再到来のきっかけとなりました。オリスは今日の機械式時計界に大きく貢献したメーカーなのです。

ヘルツォーク(左)はその後、社長として2016年までオリスを牽引

 

【独立系時計メーカー】

 先述したオリスの一時的なASUAG(現在のスウォッチグループ)への吸収。時計のみならず、ブランドを維持、成長するにあたって現代では、多数のブランドのグループ化が主流となっています。

大きな枠組みで考えれば、グループ化した方が資金力が増し、より強いブレンドへ成長出来ると言うメリットもあります。しかし、グループ内でのブランドの立ち位置、方向性は完全に舵を取られてしまい、「本当にやりたいことがやれない」と言ったデメリットが発生する事実もあるのです。

どちらが良いか、と言ったことを申し上げるのは難しいですが、グループに属さない、数少ない独立系時計メーカーであることは、時計選びの一つの選択肢であることは確かです。

主なブランドグループの相関図

 

【積極的な環境保全運動】

オリスは今、世界的に問題になっている環境破壊に対してアクションを起こしています。特に海洋汚染に対しては積極的であり、売り上げの一部を寄付する様々なチャリティモデルを販売してきました。このことは直接腕時計のデザインやスペックに繋がる事は有りませんが、企業理念として賛同するに値する、ブランドの一つの魅力としてお伝えしなければいけない事実でもあります。

アクイス・ニューヨークハーバーリミテッド

 

【オリスの着用イメージ】

ブランド戦略と言っても良いのが著名人の腕時計の着用。時には本人が製品を気に入り愛用すると言った場合もございますが、カタログやポスターはもちろん、雑誌やテレビ、映画で目にする殆どの場合がブランドの広告によるモノだと思ってください。

オリスの理念の中には、その様な著名人のイメージを不要な物としてとらえる考えがあります。派手なハリウッド俳優や流行りの歌手などはもってのほかです。例外として、古いアーティストや偉人の肖像を使用する場合もありますが、それらは着用のイメージではなく、音楽や海など、アイテムの世界観を助長するモノとして抽象的に使用されているのです。

オリスは、着用する一人一人の世界観を大事にし、着用する全員が主人公であってほしいと考えます。

 

【新しい時代】

伝統的なスイス時計産業の技法を守ってきたオリスですが、未来への飽くなき挑戦も怠りません。2020年に発表された『キャリバー400』は、機械式時計の価格や保証面での常識を覆しました。

 キャリバー400は120時間(5日間)パワーリザーブ、高耐磁性、高精度(日差-3秒~+5秒)、オーバーホール推奨期間10年と、更に10年の品質保証を付け30万円台の価格帯を実現しました。

それまでの常識では、このスペックであれば100万円を超えてもおかしくない技術です。オリスは伝統あるブランドでありながら、この技術の提供を良心的な価格で行えることを実証したのです。

 

オリス自社製ムーブメント キャリバー400

 

【オリスの魅力】

いかがでしたでしょうか。オリスのブランドスローガン「Go your own way」。様々な困難の中でも諦めず、ブレのない芯の通った理念がかつての機械式時計界を救いました。そして環境保全運動を通じた地球の未来への改革。それまでもが彼らの使命であるかの如く、その挑戦を止める事は有りません。

もしもオリスが無ければ・・・そんな事を考えながらオリスの腕時計を手に取って見てください。僅か40mm程度の小さな道具ではありますが、そこには長編の小説や映画の様に、深い深い物語が秘められているのです。

参考になればうれしいです。素敵な腕時計ライフをお送りください!

 

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