チェコで唯一現存するマニュファクチュールメーカー『PRIM/プリム』
【チェコ共和国】
華麗な装飾が施された古城と中世の街並み。爽やかなのど越しが特徴のピルスナービール、細やかなカットが美しいボヘミアングラス。中央ヨーロッパに位置するチェコ共和国はその複雑な地形と歴史の中で様々な文化を取り入れ、そして独特の進化を歩んできました。
チェコ共和国の国旗と国章
中央ヨーロッパに位置するチェコ共和国
【チェコの時計史】
18世紀後半に起こったフランス革命。重税に苦しむ市民達がついに貴族を襲撃、その貴族達との繋がりが深い宝石商や時計職人達も彼らの標的となりました。
暴動の最中、ヨーロッパ各地へ逃げ延びた時計職人達はスイス、ドイツを経てポーランドとの国境の町チェコ・ブロウモフへ身を隠します。そして密かに彼らの技術をチェコの時計職人たちに伝承していたのです。このことはチェコの時計史の中で大きな軸となり、今日のプリムの基礎となったとも言えます。
チェコ・ブロウモフ
1957年に『端整』を意味する『PRIM/プリム』と言う名で商標登録された同メーカーですが、チェコの時計史はそれよりも古く、フランス革命を更にさかのぼります。
現代では観光名所として人気の首都プラハ。そのランドマークとして時を刻み続けている旧市庁舎のプラハの天文時計『オルロイ』が製造されたのは実に1410年。天文図や人形仕掛け、暦版の複雑な仕掛けと美しい装飾のこの作品を見ると、この国のクラフツマンシップの精神が根深い事が容易に想像できます。
プラハの天文時計
【悲しい歴史と蘇ったデザイン】
プリムの腕時計はアンティーク時計を思わせる端整なデザインが特徴ですが、その要因はチェコの悲しい歴史に起因していると言われています。
第1次世界大戦後、ナチス・ドイツにより保護国への編入を余儀なくされ、一時的に世界地図から抹消。第2次世界大戦後の自由化運動『プラハの春』ではソ連の介入によって国土は荒らされ多くの文化が壊滅。そして共産主義統治を経て『ビロード革命』により国は『チェコ』と『スロバキア』の二つに分裂。
その間、国交は事実上閉ざされ、まさに時が止まった様に、複雑なチェコの文化は時代に取り残されることとなります。
ビロード革命の後チェコはOECD及びNATOに加盟。21世紀になりようやく国は開かれ、今まで閉ざされていたチェコの文化に日の光が当たる事となるのです。
そして唯一現存するチェコのマニュファクチュール時計メーカー『PRIM/プリム』の、アンティーク市場や古い文献で見るような1950年代風の、何ともノスタルジックな顔をした腕時計達が現行品として生産されていることに世界は驚いたのです。
プリム・ディプロマット
【マニュファクチュールメーカー】
プリムの腕時計に世界が驚いたのは希少なデザインが現存していたと言う事だけではありませんでした。プリムは技術力においても自社一貫生産(マニュファクチュール)に拘る一流の時計メーカーだったのです。
日本やスイスにおいて一般的な分業制によるウォッチメーキング。時計の生産にあたりケース、ダイアル、ストラップ、ムーブメントやさらにはムーブメント内部の細かなパーツに至るまで、一社で製造するのでは無くいわゆる下町工場のような下請けに受注しているのが事実です。これらはコスト削減、時間短縮において、更には雇用の充実という点でも重要であり、時には国政による制度としての仕組みとなっています。
プリムは1949年に国営の腕時計製造部門として独立。内政の事実もある事ながら、細かなパーツに至るまで垂直統合の完全一貫生産を貫く世界でも希少な時計メーカーです。わずか50人の技術者で年間1500ピースという限られた生産数も魅力です。
国境近くの町ノヴェー・メスト・ナト・メトゥイーにあるプリム本社
このお話の要点は一貫生産が良いとか分業生産が良いと言った事ではありません。個人的にはマニュファクチュールの時計は『癖がある』と思っています。精度、丈夫さ、メンテナンスのし易さと言った事を考えると、マニュファクチュールだからと言ってプリムをおススメ出来ない場合も結構あります。ただ、マニュファクチュールであることは、企業理念であり、特に機械式の時計を選ぶ際の大きな魅力の一つと言えます。
【チェコ国民のプリム、外交用のプリム】
現在では共和制として民主主義に近い体制のチェコ。街中には海外製のブランドも多く見られるようになりました。しかしながら暗黒時代にはセイコーやロレックスさえも流通しない閉鎖された国だったようです。
当時の国民が手にする時計はプリムの比較的安価なラインナップでした。そして外交などで海外からの賓客に贈呈されていた高価なプリムが、現在世界に輸出しているラインナップと言う事です。
【プリムの魅力】
いかがでしたでしょうか。数ある時計メーカーの中でもここまで語れる内容が有るのは希少です。そしてその希少なブランドが21世紀になるまで日の目を見なかった事実。『ガラクタの中に埋もれていた名品を見つけた』そんな感覚にも似ていますね。
しかも驚くことに、プリムが正式に海外市場へ進出したのは2015年、日本への輸出が最初らしいです。
プリム・オルリーク
今や腕時計は『便利な道具』としての立ち位置は終わっていると個人的に思っています。だからこそノスタルジックなデザイン。だからこそマニュファクチュール。だからこそバックボーンとなる国の歴史。そして希少性。これらがプリムの魅力だと自信を持って言えます。
このブランドを取り扱いだして数年。正直に言いますが、いまだに理解できない現象、予測できない不具合も有ります。しかしながら、おかしなことを言っていると思われるかもしれませんが、是非選んで欲しい、自信を持ってお勧めできる時計ブランドなのです。
参考になればうれしいです。素敵な腕時計ライフをお送りください!
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